ホーキング博士とテクノロジー

 

スティーヴン・ホーキング博士が闘っていた病気はALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病です。数年前、SNS上で流行したバケツの水をかぶるパフォーマンスを見てこの病気を知った方も多いのではないでしょうか。

 

ALSは、運動神経系が少しずつ障害されていく進行性の病気です。呼吸や嚥下が難しくなるため、かつては発症後数年で亡くなる病気とされていました。

 

しかし、ポータブルの呼吸器や胃ろうの開発が長期療養を可能にしました。また、文字盤やPCなどコミュニケーションを支援する機器が開発され、患者が話す機能を代替してくれるようになりました。

 

博士の病状は進行していたようですが、発症後50年以上も長期療養することができました。コンピュータによる音声合成等も利用して、周囲の人々とコミュニケーションも取っていらっしゃいました。このようなことは、博士ご自身も発症した当初は考えられなかったことでしょう。

 

医療や情報通信など技術の進化・支援によって、博士は研究を続け、活躍することができました。ALSという難病は「死の病」から「生きて付き合う病」へと変わっていきました。

 

残念ながら、ALSはまだ完治できる病気にはなっていません。しかし、昨今、ゲノムや再生医療など医療技術の進展は目覚ましいので、今後より良い治療法が開発されていくと考えられます。

 

こうしたことは他の病気でも言えるでしょう。

例えば、癌も「死の病」から「生きて付き合う病」へと変わってきています。癌を患いながら仕事に復帰する方も増えています。しかし、「生きて付き合う病」から「生きて活躍できる病」へはまだまだ転換できていないように見えます。

 

働く人も高齢となる超高齢社会では癌に限らず、何らかの病気や障害を抱え、仕事をする人が増えていきます。心身の障害に限らず、年齢や状態を問わず、誰もが長く活動・活躍できる環境が求められています。博士が体現されたように、ここでもテクノロジーをうまく活用できるのではないかと考えます。

 

ホーキング博士の訃報はくしくも平昌パラリンピックの期間中に届きました。

ホーキング博士やパラリンピック選手が教えてくれることは、「活動における障害」を低くすることができれば、より多くの人が活躍できる可能性があるということではないでしょうか。

 

もちろん、誰しもが宇宙物理学者やパラリンピック選手になれるという意味ではありません。それぞれの人に合った活動・活躍というものがあると思います(活動・活躍の仕方が多様であることは健常者も障害者も同じ)。

 

2020年には東京でもパラリンピックが開催されます。

そろそろ「障害」の捉え方・視点を「身体」から「活動」に変えても良いのではないでしょうか。

 

身体の障害については医療技術の進展を待ちつつも、その間も他のテクノロジーを適宜活用して「活動における障害」を少しずつ低くしていく・取り除いていく。そうした柔軟な発想へ転換していくことが求められていると思います。

 

情報通信技術に加え、今後はモビリティなど移動を支援する技術の進化も期待できると思います。ハード、ソフト、いろんな技術の進展が期待でき、今まで制約を抱えていた方々は活動の範囲を広げることが可能になっていくと思われます。

 

一方、テクノロジーの恩恵を受けたホーキング博士はAIに対する警鐘も鳴らしていました。ゲノム医療、再生医療の世界も生命倫理に関わる領域にとうに入っています。

 

テクノロジーがもたらす恩恵と脅威、双方に目配りしながら、テクノロジーと向き合う必要があると考えます。創造力の源泉ともなる想像力が人や自然から離れないものであって欲しいと願っています。