T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。
GoogleやAmazonなど一部のITサービス事業者による個人情報の網羅的捕捉と、それによる多様な事業の寡占化はかねてより懸念されており、欧州を中心に規制強化の動きも進んでいました。
そんななかFacebookの個人情報の流出問題が起き、それ以降、ITサービス事業者ではプライバシーポリシーやその設定に関して見直しが進められているようです。
この見直しにより、これらサービスの利用者は、自分の情報が事業者にどのように取得・利用されているかを少し把握し易くなると思います。自分が希望しない用途や望まない第三者に利用されることから or 情報漏洩・悪用のリスクから、自分の情報を守り易くなります。
ただ現状、こうした対応は事業者任せで、利用者保護の観点からすれば改善の余地があると思います。
もともとIT業界におけるサービス事業者と利用者の間には、情報の非対称性の問題があります。類似の問題を抱えていた金融業界の例が参考になると思います。
複雑な金融商品を売る金融機関はその金融商品のリスクを知っているのに対し、買う側の消費者はその商品がもつリスクを知らずに買ってしまい、予想外の損失を被ることがあるため、かつて問題になりました。
消費者保護の観点から問題を解決すべく、金融商品の販売等に関する法律が制定され、金融機関は金融商品がもつリスク情報を消費者に開示するよう義務付けられました。
今、金融商品のパンフレットにはその商品の魅力と併せ、その商品がもつリスクも示されています。
商品を売りたい金融機関としては、消費者の買い控えにも繋がりかねないリスク情報は本来積極的に開示したいものではありません。しかし、これが義務化されたため、金融機関は対応せざるを得なくなりました。
これにより、金融商品に詳しくない人でも、商品の魅力の裏に隠されたリスクを知ることができるようになったのです。
金融商品にある程度慣れている一部の消費者にとっては、金融機関の担当者からいろんなリスク情報を説明されたり、書類への押印を求められたりすることは煩わしく感じるものでしょう。
しかし、この義務化により、売り手と買い手の情報の非対称性は薄まり、幅広い消費者が主体的な判断をし易い環境となったことには大きな意義があると思います。
今後益々、I o Tで個人の多様な情報がデータとしていろんな場所で捕捉され、いろんな形で繋がり、利用されることが考えられます。
先行する一部のITサービス事業者はデータの蓄積・囲い込み、データ活用した新たなサービスの開発を加速させていくでしょう。
ITサービスの利用者は、自分の情報をどんな目的のために、誰に、どこまで、どのように開示するのか、主体的に判断することが今後益々求められると思います。
日本では遅れ気味に見えるデータポータビリティに関する議論も、今後は更に活発化していくことでしょう。
以前、携帯電話(スマートフォン含む)のナンバーポータビリティの問題では、国内の通信キャリアによる囲い込み(ユーザー・事業・収益)との間で調整が必要でした。
今は、データポータビリティの問題で、内外のITサービス事業者による囲い込み(ユーザー・事業・収益)との間で調整が必要になってきていると思います。
ここで必要となる調整は何で、当事者は誰で、調整役は誰が適切でしょうか?
皆さんは未来においてどんな社会を、生活を、サービスを期待し、そのために自分の、家族の情報をデータとしてどこまで提供・開示しますか?
もはや、金融機関やIT事業者などから、いつも一方向的に商品やサービスを提供される時代ではなくなりつつあると思います。
利用者自ら or 事業者と一緒になって、商品・サービスの開発、そのために必要なデータの提供に参画するもの(間接的にも)に変わってきていると思うのです。
そのとき、企業に、行政に、国に、必要な環境として、皆さんは何を望みますか?
個人や企業が主体的に判断・行動するための環境づくりは国や行政の問題になるでしょうが、それを望む or 受け容れる個人や企業の側にも問題が提示されていると思います。
未来はみんなで創るものと思うからです。