本当の障害は何か?-「アスペ」と呼ばれた若者との協働

 

T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。

 

大学院にいた頃、ダイバーシティ・マネジメントに関する講義を受けたのですが、そこで取り上げられたのは女性と外国人の問題だけでした。

 

真っ先に違和感を覚えたのは、ダイバーシティ(多様性)と言いながら、いわゆる障害者が含まれていなかったことです。

 

私の研究テーマは障害者に関するものだったので文献を調べてみましたが、教育や生活支援に関するものはあっても、障害者の就労に関する研究はとても少なく、あったとしてもその内容は社会的義務として法令に付随した研究がほとんどでした。

 

障害者は保護される/支援される対象として、社会福祉の範疇に研究や支援を長く留めてきたことが背景にあるように思えました。

 

大学院で私が障害者のテーマで発表しても、何やら高尚なことを考える奇特な人と捉えられてしまうことにもずっと違和感がありました。

 

先日、勝間和代さんがTVで自身が発達障害とLGBTであることを告白していました。

 

障害の性質もありますが、ご本人の告白がなければ誰も彼女を障害者とは思わないでしょう。

 

告白されても、あれだけ活躍し、経済的にも自立しているわけですから、何か支援が必要な状況には見えません。

 

それでも彼女が告白したのは、隠している後ろめたさと周囲の人に理解してほしいという気持ちによるものだったようです。

 

また、ある病気をもつ別の女性がTVのインタビューで言っていました。

「可哀そうがらないで、いじめないで、ただ普通に接してほしい

 

普通に接するには、ある意味お互いが特別でないことが前提になります。

いろんな事情を抱えた人がいることが当たり前”と思える状況が身近にないと難しいということにもなりかねません。

 

ただ人間には想像力があります。

いろんな人に関心を持ち、想像することで、多様な人の、様々な事情や置かれた状況、心情を推し量ることはできると思います。

 

「いやいや、それは無理」という場合には、まずは“人間誰しも自分特有の眼鏡をかけて世界を見ている”という自覚を持ち、人に対するレッテル貼りを止め、色眼鏡を外すだけでも、見えてくるものがあるのではないでしょうか?

 

以前、職場でちょっと変わった若者がいました。

彼は有名私大を出て入社しましたが、配属先の上司や周囲の人とうまくいかなかったようでなぜか私の部署に配属になりました。

 

彼のいた部署や周囲の人に聞くと「彼はアスペだ」と言います。

アスペルガー症候群(以下、アスペ)という言葉を私は知りませんでしたし、今も適切に理解している自信はありません。

 

私が気にしたのは彼がアスペか否かではなく、彼がどんな人で、どんなことが得意or不得意か、どうしたら彼も含めた職場の皆が気持ちよく仕事ができるか、それだけです。

 

私は医療者ではありませんし、会社は仕事をする場です。

 

本人や人事部から言われたわけでもないのに、アスペか否かなんて確認のしようがありません。ネットでアスペに関する情報を得たとしてもわかるのは一般的なことだけで、彼がそれに合致するとも限りません。

 

他の人が異動してきた時と同様に、雑談したり食事に誘ったりして彼の様子を見つつ、私は彼に仕事を頼んでいきました。

 

確かに彼はなんというか、間が悪かったり、発言がちょっとずれていたりすることはありましたが、だからといってそれほど問題だとは思えませんでした。大体、私も他の人からみれば「変!」だったりするでしょうし(笑)

 

彼は独特のこだわりを持っているようだったので、ある分野の調査を頼んだら、とても丁寧に調べてくれました。

 

私が体調を崩したときには心配してくれたりして、とても優しい若者でもありました。

 

職場で障害など事情を抱える人と接する上で注目すべき点は心身の障害ではなく、働く上での障害ではないでしょうか?

 

「できないこと」ではなく、「できること」や「どうやったらできるか」に目を向けて考えていくことが大切と思います。

 

このことは、育児や介護をしながら働く人、ガンなどの病気から職場復帰する人など、広くいろんな事情を抱える人が働く環境を考えるうえでも共通します。

 

そして、イノベーションを生むときに必要な考え方でもあります。

 

レッテル貼りや色眼鏡は一つの固定観念、準拠枠、意識・無意識にもっているバイアス。こうしたものはイノベーションの創出を阻害する一番の障害になります。