知らぬが仏?-もうひとつのテクノロジー(BT)

 

バイオテクノロジー(BT)についても有意義に活用できるか否か、研究・医療機関だけでなく、企業自身も問われることになると思います。

 

変革時代にこうしたテクノロジーの活用を考えるとき、企業としての立場でものを考える前に、ぜひご自身やご家族のことを思い浮かべながらBTでどんな世界/生活になるのか、なったらよいと思うかを一生活者として想像してみて頂きたいと思うのです。

 

10数年前、ゲノム(遺伝情報)解析や再生医療などのテーマを追いかけていた頃、こんなことを考えました。

 

ゲノム解析でいろんな病気や寿命が事前にわかるようになったとき、自分はどうするか?

事前にわかる or 事後に何でも再生できるのは本当に幸せか?

幸せ、不幸せ両方が想定できる場合、その線引きはどこになるか?

 

当時、身の回りの人に聞いてみたところ、反応は様々でした。

例えば、生まれてくる赤ちゃんの病気や障害を予測する出生前診断について周囲の人と話したときには賛否が大きく分かれました。

 

現在では高齢出産の増加等もあり、出生前診断は広く知られるようになっています。

 

また、最近では病気のリスクを事前に知るサービスとして、IT系企業が遺伝子解析サービスを提供しています。

 

米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のために乳房切除したことも話題になったりしました。

 

何等か対処のしようがあり、対処すべく意思決定ができるもの/できる人はよいかもしれませんが、対処のしようがない or わかったとしても意思決定に心理的な負担が大き過ぎるものについては必ずしも事前にわかって良いとばかりは言えないでしょう。

 

ガンの余命宣告のように、事前に回復の見込みや寿命の目安がわかることで、やりたいことや必要なことをやっておく準備ができる、と前向きに受け止められる人ばかりでもないからです。

 

昨秋、中国の研究者がゲノム編集技術を使って改変したヒトの受精卵から赤ちゃんが誕生した、いわゆるデザイナー・ベイビーの誕生だと話題になりました。

 

事の真偽と何をどこまでやるかは別として、テクノロジーが我々の生活どころか、我々人間そのものまで変えられるような世界に近づいています。

 

2000年前後に話題になったゲノムプロジェクトは当時からいろんな問題提起がされていました。倫理観、宗教観、死生観などの問題も提示されていましたし、経済的な問題もありました。

 

十数年前、これからの医療がどうなるのか気になり、研究者たち専門家の勉強会に参加していました。当時から“医療はオーダーメイド、個別化が進んでいく“と言われていました。

 

個々人が最適な医療を受けられるのはとても良いことと思う一方で、私には幾つか疑問がありました。ある日の研究会で次のような質問をしたら、専門家の議論がピタっと止まってしまいました。

 

    ゲノムから薬の効果や副作用の起こりやすさなどがわかり、一人一人に適した医療となったとき、その費用はとても高額になるのではないか?

    高額な医療を受けられる人と受けられない人が出ることにならないか?

    医療経済、財政面も含め、どのような対応が考えられるか?

 

通常、医薬品の開発には多額のコストがかかります。

開発も製造も難しい遺伝子や細胞レベルで個別最適化したとき、その開発や製造にかかるコストを考えれば医療は高額にならざるを得ず、それを誰がどう負担するかは大きな問題になると考えたのです。

 

残念ながら、専門家の答えは力弱いものでした。

専門家は研究開発には熱心でしたが、社会や経済への影響については思考の外に置かれていたのです。

 

近年、一部の抗がん剤などの価格が高過ぎる、このままでは医療財政が破綻すると話題になっていますが、このような問題は当時からわかっていたことです。

 

BTの進展に加え、IT、特にAIの出現で医薬品開発や診断の精度が上がり、コスト低減に繋がる可能性があるとか、3Dプリンタで再生医療が効率化するとか、今後もテクノロジーの進化が問題を軽減していく可能性はあるでしょう

 

何事もメリットがあればデメリットもあります。今のテクノロジーは私たちの生活へもたらす影響がとても大きいので、経済的な問題だけでなく、多面的に功罪を見ておく必要があると思います。

 

ゲノム(遺伝情報)だけでなく、これからはライフログ(生活データ)も取れます。ICTで幅広く多様な場所で取られたデータが益々連携していきます。AI、ロボット、ドローンのような移動/移送手段などハードもソフトもいろんなものが進化し、組み合わされていきます

 

これまでもブログで書いてきた通り、第三者(個人、企業、行政を含む)による悪用の懸念もあり、使い方を間違えるととんでもない悲劇を生む懸念もあるでしょう。

 

10数年前に比し、こうした議論は専門家の間では進んでいるでしょうし、Society5.0で「目指す社会」を共有しようという動きも見られます。ただ、気になるところもあります。

 

「最適化」社会は誰にとって、何をもって最適なのか、どこまでをシステムと見做すのか、最適と最適がぶつかり合うときどちらを優先するのか、それはなぜか、今後も関心を持って自分事として見ていきたいと思います。

 

そして、大きなストーリーから小さなストーリーに落とし込んでいく、そんなお手伝いを今後もしていきたいと存じます。

 

 

追記(2019/1/15):

このブログをリリース後、日経一面トップに「がんゲノム医療、全国で」というニュースが流れました。厚生労働省ががん患者の遺伝情報から最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」の展開を進めていくという報道でした。

 

ITだけでなく、BT(バイオテクノロジー)もどんどん身近になってきています。

医療と聞いて医療機関だけをイメージしていてはいけません。他分野への影響も視野に入れておきましょう。

例えば、BTは今後もっと金融、保険にも影響していくでしょう(公的な保険だけでなく、民間の保険も)。個々の保険会社がどんな姿勢で私たちのデータを活用していくか、注目していくのも良いでしょう。

あなたが契約している保険会社は、自分(自社)起点 or 他者(利用者、あなた)起点でしょうか?企業の姿勢が垣間見えてくると思います。

 

このように、テクノロジー、外部環境の変化を他人事ではなく、自分事として捉えてみてください。変化が激しく分かりにくいといった場合はT&Iアソシエイツにご連絡下さい。

 

外部環境の変化を自分事とする、双方向で「伝わる」講演・研修、コンサルティングを行っています。