新型コロナウィルスと“燃えていく”現金

 

TIアソシエイツ代表の田中 薫です。

 

新型コロナウィルスの影響が拡大しています。

当初は未知のウィルスがもたらす未知の病気に関心が向いていた方(健康面への不安)が多かったでしょうが、今は就業や収入への影響に関心が向いている方(経済面への不安)が増えていると思います。

 

今はまだ経済的な影響を大きく受けていない企業や個人であっても今後は要注意です。

先行きが読みにくい、不確実な状況下にあるとき、最悪の事態も予め考えておく必要があります。

 

例えば、皆さんの会社が仮に売上ゼロになった場合、手許の資金でいつまで会社を維持できますか(生存期間)?

 

いわゆるスタートアップ企業、昔ながら(^^;でいうとベンチャー企業、彼らに投資する投資家、これらの間で使われる言葉にバーンレートというものがあります。資金燃焼率などと訳されることもありますが、Burn RateGoogle翻訳すると燃焼速度。こちらの翻訳の方が使われる目的や背景、情景を表しているように感じます。burnは燃える、ここで燃えていくのはcash、現金です。

 

簡単に言うと、バーンレートは1ヶ月にかかるお金です。投資家から資金調達するとき、調達した資金or手許の現預金で会社がいつまでもつか?を判断するときに使います。

 

リスクの高い事業に挑むベンチャー企業はなかなかまとまった売上を計上できません。費用が先行し、黒字化までの道のりは厳しいものがあります。投資家から調達した資金でいつまで会社を維持できるのか、減りゆく現金、日々、月々“燃えていく”現金と事業を軌道に乗せる活動との狭間で戦うことになります。時間との勝負です。

 

追加の資金が必要でも、次の資金調達が可能か否かはその間の活動成果と外部環境に依存します。何千、何億という現金がその間に燃えていくのですから、起業家にはかなりの精神力、レジリエンスが求められます。

 

今回の新型コロナウィルスの影響で売上が急減、先行きが見えないとき、既存の企業もベンチャー企業と同じような経営状況、精神状態に置かれることになります。心理的ストレスを少しでも軽減すべく、心の準備がてら試算してみてはいかがでしょうか?

 

    先月末の現預金残高はいくらありますか?

    1ヶ月の総費用はいくらですか?(ex.月平均=過去1年間の総費用÷12ヶ月)

    現預金残高(①)を1ヶ月の費用(②)で割ると、どのくらいの月数になりますか?

 

仮に2月末に200万円の現預金残高があり、1ヶ月50万円の費用がかかっているなら4ヶ月は売上がなくても会社は維持できることになります。

 

②はバーンレート、➂は売上ゼロとしたときの生存期間になります。

売上が全くないというのは現実的でないと思われることもあるでしょうし、②の総費用には変動費も含まれています。気になる場合は総費用(いわゆるグロス)ではなく、総費用から売上を引いた実質、いわゆるネットのバーンレートを算出し、現預金残高を割って生存期間を試算されると良いと思います。

 

費用には減価償却費など実際にはキャッシュの流出を伴わないものもあります。季節変動、一時的な出費や売上の影響も考えられます。適宜修正しながら試算されるのも良いと思いますが、厳密さを求めるよりまずはざっくり保守的に見た自社の生存期間を具体的な数字で認識することが大切と思います。

 

そのうえで生存期間内にできること、生存期間を延長する方策を考えます。

 

売上の見通しが厳しい状況ではまず固定費(売上に関わらずかかってしまう経費、賃借料や人件費、保険料等)の見直しが求められます。固定費を削減した分(上記②を下げる)だけ生存期間を延長(➂を延ばす)できます。

 

相手先との交渉が必要になりますが、誠意をもって相手先と向き合うことが今と将来に影響してくることを忘れないでください。法的な問題も関わってきますので適宜、弁護士や社会保険労務士、関係機関へもご相談されると良いでしょう。

 

併行して状況に応じた資金の確保・調達、売上の維持・確保に向けた追加の施策(①を増やして➂を延ばす)を検討します。これら企業側の努力を支える公的な支援制度や相談窓口は下線部以降(<支援制度の情報を必要とする方へ>)にご紹介していますのでご覧ください。

 

なお、大変言い辛いことですが、真の最悪の事態として事業や会社を”止める”ということを検討しなければならないこともあると思います。こうした事態をベンチャー企業に当て嵌めるとEXITという言い方をします。EXITも前もって準備することが望ましいと言えます。これについてはまた機会を見て書いてみたいと思います。

 

以上、今回はベンチャー企業の“バーンレート”を参照しながら、先行きの見えない状況下で悲観的に考え、楽観的に行動する事始めとしてお伝えしました。

 

上述のような考え方は就業や収入に不安を感じる個人にも応用が可能です。

今後は勤務先企業のリストラ、倒産や廃業などの懸念が顕在化する可能性も否定できません。個人としての家計管理独立・起業する際のご参考にもお役立て頂ければと思います。

 

宜しければ以下のコラムもご参照ください。

 

新型コロナウィルスとBCP

起業とレジリエンス

自分事とは何か?中小企業とベンチャー企業の違い

中小企業のデジタルトランスフォーメーション

第二創業と経営理念

 

 

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<支援制度の情報を必要とする方へ>

政府は国を挙げて対策に取り組み、各種の支援制度を設けています。

 

既にこれらの制度を活用すべく、相談窓口に駆け込んだ方も多いでしょう。一方で、目先の業務運営や売上確保に追われて相談に行けていないor近年の好況時に創業、順調な滑り出しだったため足元の急激な変化にどう対応してよいかわからない、そのような方もいらっしゃるかもしれません。ご自身でなく、周囲にそのようなお困りの方がいらっしゃる場合も、以下に掲示する情報をお伝え頂ければ幸いです。

 

まずは以下のリンク先(経済産業省)から公的支援制度の一覧が掲載されたパンフレットを参考に相談窓口へお出向きください。相談窓口は土日も開いています。

 

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

 

どんな支援制度があるのかざっと目を通したうえで相談に行かれると良いと思います。訪問時には自社の現状が相手に伝わりやすい資料(会社案内、決算書や試算表、前年や前月との業績比較が可能な資料等)を持参されると話が早いと思います。

 

公的な相談窓口としては日本政策金融公庫、各地の信用保証協会や商工会議所・商工会・よろず支援拠点、中小企業基盤整備機構等があります(上記パンフレット参照)。加えてメインバンクとなっている金融機関でも相談に応じてくれるはずです。

 

これらの窓口は混雑も予想されるので、税理士、会計士、中小企業診断士、経営コンサルタント等とのお付き合いがある方は先にそちらの顧問に相談されると良いかもしれません。