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「まだ」医薬品を作っている武田薬品

 

T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。

 

2年前、通っていた大学院で「技術イノベーション」という授業があり、その期末課題が「日本企業のイノベーション戦略上の課題と今後の展望について論ぜよ」というものでした。

 

課題レポートで今後の展望について記すなかで、私は3つの選択肢を示し、幾つかの事例を挙げました。そのなかで、残念な方向に行きそうなケースとして取り上げたのが武田薬品工業(以下、タケダ)でした。

 

今回の買収ニュース(アイルランドの製薬大手シャイアー社を買収)を読みながら、2年前の想定通りに進んでいることを残念に思いました。

 

日本経済新聞(以下、日経) 朝刊(2018/12/6)では、約6.6兆円という巨額買収により、タケダが製薬業界8位(世界)に浮上すること(買収前は19位)、買収がもたらす財務的な影響、買収の背景などが報道されていました。

 

製薬業界は昔からM&Aが盛んです。

 

製薬会社は新薬(新しい医薬品)の開発で成功すれば、上市後、特許が残存する期間は高い収益を期待できますが、特許が切れ、その後に続く新薬がなければ収益の安定が図れません。

 

もともと新薬の開発難度は高い(10数年前に調べた時で、確か1万分の1程度の上市確率)のですが、それが益々難しくなりました(3万分の1との報道も)。

 

自社の収益の穴を埋めようと、他社の販売・開発品目(いわゆるパイプライン)や開発インフラを買収することが世界中で行われてきたのです。

 

それは日本の製薬トップ、タケダも同じでした。

 

タケダは2008年のミレニアムファーマシューティカルズ社、2011年のナイコメッド社、2017年のアリアッドファーマシューティカルズ社と、数千億円から1兆円レベルの買収を繰り返してきました。

 

こうしたこれまでの買収効果を問うことも意味はあると思いますが、もっと気になるのは、視点や視野が従来の延長線のままではないか、ということです。

 

同日の日経に、フィナンシャルタイムズのコメンテーター、ラナ・フォルーハー氏が「ITの大波 乗れぬ車大手」との題で自動車業界、GMについてコメントしていました。

 

そのなかで、同氏は「GMにとっての課題とは、この変革の時代に、自動車メーカーとして意味のある存在であり続けられるかだ」としています。

 

同氏の言葉を今回のタケダに当てはめれば、タケダは「医薬品メーカーとして意味のある存在であり続けるために」グローバル化を押し進め、一連の買収を行っており、今回の買収もその延長線にあると言えます。

 

しかし、それで十分でしょうか?

 

私としては同氏にさらに一歩、論を進めて欲しいところです。

 

以前、「クルマ作っているトヨタ」というブログを書きました。

 

そのなかで、「トヨタ自動車の社名から『自動車』が無くなるのも時間の問題」、「従来の延長線的な思考から脱却し、新たな未来をデザインすることが求められます」と書きました。

 

同じことがタケダにも言えると思います。

 

×Techであらゆる業界が業界の垣根を越えて戦う、リアルとサイバーが融合する時代に入っているのに思考が変わっていないのではないかと。

 

タケダのホームページによれば、目指す姿は「新たな医療体制に対応し変革を続ける」というもので、「未来につながる新しい医療体制の構築を支援し、より多くの患者さんや医療関係者の方々に革新的な医薬品を継続してお届けできるよう変革を続けています」とあります。

 

さらに、ミッションは「優れた『医薬品』の創出を通じて、人々の健康と医療の未来に貢献すること」とされています。

 

同社はあくまで医薬品という業界から出ず、医療体制の構築は支援する立場のようです。そこでの変革とはどの程度のものか疑問に思います。

 

もっと視点を変え、視野を広げて取り組む必要があるというのが、私が大学院の課題で書いたことでもあり、今回の買収ニュースが想定通りで残念に思っている理由です。

 

タケダは収益とそれを支えるポートフォリオ、グローバル化を意識するあまり、見落としている視点があるのではないか?

 

繰り返される買収で、タケダはグローバル化というリアルな世界の地域拡大を図りましたが、サイバー空間との融合はどうでしょうか?

 

まだまだITを既存事業の効率化のための手段としか思っていない企業は多いようです。

 

同日の日経「やさしい経済学」の欄に、「デジタル化と顧客価値創造」というテーマで一橋大学の神岡太郎教授が書いておられましたが、同様の話を私も今夏、クラウドサービス推進機構の年刊誌(『IT経営ジャーナルvol.5』)に投稿した「スマートIT経営への道筋」のなかで書きました。

 

タケダの一連の買収はひとつの考え方としては理解できます。

 

しかし、情報技術/情報通信技術(IT/ICT)とバイオテクノロジー(BT)がこれだけ進んでいるなかで、思考が従来のままというのは寂しい限りです。

 

日本が超高齢社会の課題先進国であることは、世界的なビジネスを展開する上でとても大きなチャンスであるだけに余計残念に思います。

 

海外のCEOはどう考えているかを確認したくて、以前、来日した海外の大手製薬会社CEOの講演を聞きに行きました。その日の演者のなかで一人だけ、そのことに触れたCEOがいました。個人的にはこのCEOの動向を注視したいところです。

 

さて、ニュースはこのようにいろんな注目点があります。

 

業界の垣根がなくなる今、特に異業種から学べることは多いはずです。

ニュースはビジネスモデルや新規事業のヒント、考える人材の育成にも有効です。

 

今回の買収ニュースですが、経営者、特に中堅中小企業、ベンチャー企業の経営者の方には、買収者のタケダより被買収者のシャイアーに注目した方が得るものは大きいでしょう(異業種の方にはわかりにくいかもしれませんが)。

 

変革の時代はトップ企業よりその他の企業、大手企業より中堅中小企業にチャンスがあります。下克上の時代でもあるのです。

 

 

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