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クルマ「も」作っているトヨタ

 

T&Iアソシエイツ代表の田中薫です。

 

「トヨタはいずれ、『クルマ作っているトヨタ』にならざるを得ない」

 

2年前も、昨年に至っても、そのような私の発言を聞いて、本当の意味で共感してくださる方は、大学院でもお客様(大手企業でも)でもかなり少数(ほとんどいなかった?)だったと感じています。

 

先日、トヨタ自動車とソフトバンクグループの戦略的提携が報じられました。

 

皆さんはどう思われたでしょうか?

 

このような提携に納得しましたか? or 驚きましたか?

 

両社は移動サービスを手掛ける新会社モネ・テクノロジーズを設立し、共同で事業を開始します。

 

新会社の出資比率は、ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)が50.25%、トヨタ自動車(以下、トヨタ)が49.75%と発表されました。

 

皆さんはこの出資比率に納得しましたか or 驚きましたか?

 

提携や出資比率に驚いた方は、変革時代への対応において、自社は遅れているかもしれない、と思われた方が良いかもしれません。

 

トヨタは、コツコツと現場の努力を積み上げる、地道なカイゼンを得意とする世界的な自動車メーカーとして知られています。

 

堅いイメージのトヨタですが、1990年代からベンチャー投資にも取り組み、インターネット業界との関わりも持っていました。

 

今回の報道では、その当時、ソフトバンクの孫社長がトヨタの課長だった章男氏に提携を持ち掛けた話も伝えられました。

 

しかし今、20年前とは大きく情勢が異なります。

 

今回の提携は、トヨタがソフトバンクに積極的に働きかけたものです。

出資比率にもその影響を垣間見ることができます。

 

トヨタは近年、「クルマ」をベースとする思考から脱却し、次世代の移動サービス、モビリティへの対応を急いでいました。

 

昨年辺りから、豊田章男社長は「100年に一度の大変革期」と内外の関係者に向けて、強い言葉で踏み込んだ発言もしていらっしゃいました。

 

2009年の社長就任以降、リーマンショック後の対応や、米国での訴訟・大規模リコール、東日本大震災、タイの大洪水、円高など矢継ぎ早の試練を乗り超えてきた豊田社長でも、特にこの1年のご発言は危機感と切迫感を強く感じさせるものでした。

 

会社としても、トヨタは内外のIT企業に出資したり、積極的な提携にも動いたりしていました。ただ、どこへ行っても、最後はソフトバンクにぶち当たったようです。

 

一方のソフトバンクは、元来、出資や買収など内外の投資活動が活発な企業で、業容の変化やその幅も広く、外部環境の変化を先取りするかのようにいつもスピーディに対応しています。

 

孫正義会長兼社長はこれまでも投資家や世間をびっくりさせてきました。

 

そんなソフトバンクですが、この何年かでの大きな注目点は2016年にあったと言えるでしょう。

 

2016年、同社は英国の半導体設計会社ARM Holdingsを買収、サウジアラビア王国と世界規模でテクノロジー分野に投資する巨額のファンド(1000億ドルの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」)の設立も発表しました。

 

個人的には、ARMの買収ニュースに「さすが!」。

続くサウジアラビアとのファンド設立のニュースに更に唸りました(笑)。

 

かつて同社が英国Vodafone Groupを買収した時をちょっと思い出したりもしていました。

 

1980年代、パソコン用パッケージソフトの流通事業から始まったソフトバンク。

 

同じ時代に活躍したMicrosoftのビル・ゲイツは2008年に一線を退き、Appleのスティーブ・ジョブズは2011年に亡くなりました。

 

今も最前線にいる孫さんは、ソフトバンクが300年成長し続けることを目指しています。

 

掲げている同社の行動指針は、「No.1」「挑戦」「逆算」「スピード」「執念」です。

 

トヨタを始めとする大手企業に今求められているのは、「挑戦」「逆算」「スピード」でしょう。

 

しかし、多くの企業は「逆算」ができないために、「スピード」をもって「挑戦」することができないように見えます。

 

「逆算」には、従来の延長線的な思考から脱却し、新たな未来をデザインすることが求められます。

 

そこでは、過去の成功体験、固定観念、既存の事業や組織、職位等に意識的にも無意識的にもしがみつく「執念」ではなく、正に生き残るための「執念」が求められます。

 

創業以来、トヨタ自動車が目指してきたのは、「自動車を通じて豊かな社会づくり」。

 

「未来のモビリティ社会をリードする」ことを目指すうえでは、トヨタ自動車という社名もいずれ変わらざるを得ないでしょう。

 

一番変わらなければならないのは、人の意識。

 

危機感を共有し、変革に取り組むには、組織に帰属する人々が「外部環境の変化をどれだけ自分事として認識できるか」にかかっていると思います。